2012年2月8日水曜日

始まりまして、ごあいさつ

「糸の先へ」展、2月4日に無事オープンし、来場者の皆さまをしずかにお迎えしているところです。

本日4日目、オープンしてはじめてのブログ更新でごめんなさい。

まずは改めて、ごあいさつを。

、、、といっても、会場入口に掲示しているあいさつ文ではありますが。

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 福岡県立美術館はこれまで近代工芸の歴史や状況を検証する展覧会を数多く企画してきました。その成果を引き継ぎつつ、このたび染織工芸やファイバーワークを対象とした展覧会「糸の先へ」を開催します。

 本展で紹介するのは、いまも現役で作品をつくり続けている10組の作家たち。人間国宝(重要無形文化財保持者)である志村ふくみと鈴田滋人を筆頭に、築城則子、松枝哲哉は伝統工芸の世界に現代的な感性を込めて活躍しています。空気のように軽やかで、光のようにきらめく作品を生みだす上原美智子と堀内紀子。染めの本質を追究し、その可能性を広げ続けている福本繁樹と福本潮子。関島寿子のかごは手と素材、作家と自然との交わりをダイナミックに見せてくれます。ヌイ・プロジェクトによる無垢な刺繍は私たちの目を圧倒すると同時に、心を癒してくれるでしょう。

 作品のスタイルは各人各様ですが、そこから共通して浮かびあがるのは細く長い糸、薄く軽やかな布が導く深く穏やかな世界。物理的には存在感も頼りない糸や布が、だからこそ私たちと親密な関係を紡ぎだし、一人ひとりに安堵と抱擁感をもたらしてくれます。糸や布の存在感とはむしろ、その輪郭の内にあるものではなく、私たちを含めた外との関係性のなかで立ち現れるものではないでしょうか。

 作家たちもまた糸や布に導かれて手を動かし、手を動かすことで自身の存在を確かめようとしているのかもしれません。そして作品を見る私たちは、彼らが重ね合わせる生を通して一本の糸の計り知れなさ、一枚の布の懐深さを改めて知り、私たち自身の生をも見つめ直すのです。

 糸という物質の先端を手につかみ、その先に広がる生の奥行きに足を踏み入れること。本展の試みはここにあります。最後になりましたが、本展に惜しみないご協力を賜りました10組の作家方をはじめ、貴重な所蔵作品をお借りしました方々など関係各位にお礼を申し上げます。


20122

福岡県立美術館